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喜多村和之『大学淘汰の時代―消費社会の高等教育』(中公新書)

上げ止まった18歳人口が緩やかな下降カーブを描き始めた1992年の2年前、1990年にこの本は世に出た。
読みどころは何と言っても、青年人口の減少に直面した1980年代のアメリカと中世のボローニャを結びつけて、高等教育の歴史に大きな補助線を引いてみせたところだろう。

大学の歴史は高等教育というサービス及びその成果としての学位取得証明書の売手(=大学及びその構成員たる教職員)対買手(=学生及びその学資の負担者)との対決の歴史でもあった。

よく知られているように、大学の起源は11世紀のボローニャとパリに遡る。
「教師の大学」と呼ばれたパリ大学とは対照的に、ボローニャ大学は学生がギルドを結成して教師を雇い、気に入らない場合には解雇をもって処した「学生の大学」である。
『孤独な群衆』で名高いアメリカの社会学者、デイヴィッド・リースマン(1909〜2002年)は『高等教育論―学生消費者主義時代の大学』の中で、青年人口の減少に直面して教授団のイニシアチブが衰退するという潮目の変化を「学生消費者主義」(Student Consumerism)という言葉で説明してみせた。
本書はこの議論を引き継ぎつつ、中世ヨーロッパを引き合いに出すことで、壮大な歴史の中に1980年代のアメリカ、そして1990年代以降の日本の状況を位置付けるという最高難度の大技を決めている。大局観を養うにはもってこいの一冊。オススメ。
オススメ度:★★★★★

大学淘汰の時代―消費社会の高等教育 (中公新書)

大学淘汰の時代―消費社会の高等教育 (中公新書)