かけだし大学経営者のためのブックガイド

すべての大学経営者に贈る、ニッチすぎるブックガイド。

高野篤子『イギリス大学経営人材の養成』(東信堂)

本作『イギリス大学経営人材の養成』(東信堂)が世に出たとき、前作『アメリカ大学管理運営職の養成』(東信堂)と同じ方法論を英語圏の大学に当てはめれば、いくらでも論文が書けてしまうのだということに気づかされました。鉱脈を掘り当てたとはこういうことを言うのでしょう。カナダ、オーストラリア、シンガポール…と続刊があることを祈ります。

ここにはオックスフォード大学が学内で職員向けにどういう研修を行っているかなんてことまで書いてあります。ニッチすぎる。

イギリス大学経営人材の養成

イギリス大学経営人材の養成

上山隆大『アカデミック・キャピタリズムを超えて―アメリカの大学と科学研究の現在』(NTT出版)

谷崎のあとに谷崎なく、太宰のあとに太宰なし。何物にも似ていないことが卓越性の証明になるのであれば、少なくとも私にとって『アカデミック・キャピタリズムを超えて』は一つの達成だ。寡聞にして、私はこれに似た議論を目にしたことがない。

この本を読むと自分がいかに固定観念の虜囚だったかということに(多かれ少なかれ)気づかされる。例えば、そう、「象牙の塔」という言葉をきのうまでのように無自覚に使うことはもうできない。大学は私たちが思っているより遥かに複雑で、御した難い生き物のような存在なのかもしれない。

 

ところで、すごいすごいと聞いてはいたが、ここに書かれたアメリカの大学の資産運用は本当にすごい。

日本の大学経営は一括採用とジョブローテーションという日本的雇用の中でこれからも頑張っていくしかないと私は思ってきたが、このレベルの資産運用やファンドレイジングを異動してきたジェネラリストがまっとうすることは到底不可能だ。

オススメ度:★★★★☆

師岡幸夫『神田鶴八鮨ばなし』(新潮文庫)

大学職員は寿司職人に似ている。

独立にあたって親方から言われたことは、「鮨は誰もが握れて、それなりに上達できる。しかし、それだけでは駄目だ。人間としても成長していかなければ意味がない」と。

誰でもそれなりにやっていけるかもしれない。しかし、だからこそ、そこに人間的な成長がないと意味がない。

ここに引いたのは『鮨12ヶ月』(新潮社)という本の中の言葉で、この「親方」というのが、ほかでもない師岡幸夫さんのことである。

『神田鶴八鮨ばなし』には、若き日の師岡さんがどうやって人間的成長を掴み取っていったかが寸鉄人を刺す言葉で語られている。

リタイアしてから読んだら仕事がしたくなって困っただろうな。

オススメ度:★★★★☆

神田鶴八鮨ばなし (新潮文庫)

神田鶴八鮨ばなし (新潮文庫)

鮨12ヶ月 (とんぼの本)

鮨12ヶ月 (とんぼの本)

喜多村和之『大学淘汰の時代―消費社会の高等教育』(中公新書)

上げ止まった18歳人口が緩やかな下降カーブを描き始めた1992年の2年前、1990年にこの本は世に出た。
読みどころは何と言っても、青年人口の減少に直面した1980年代のアメリカと中世のボローニャを結びつけて、高等教育の歴史に大きな補助線を引いてみせたところだろう。

大学の歴史は高等教育というサービス及びその成果としての学位取得証明書の売手(=大学及びその構成員たる教職員)対買手(=学生及びその学資の負担者)との対決の歴史でもあった。

よく知られているように、大学の起源は11世紀のボローニャとパリに遡る。
「教師の大学」と呼ばれたパリ大学とは対照的に、ボローニャ大学は学生がギルドを結成して教師を雇い、気に入らない場合には解雇をもって処した「学生の大学」である。
『孤独な群衆』で名高いアメリカの社会学者、デイヴィッド・リースマン(1909〜2002年)は『高等教育論―学生消費者主義時代の大学』の中で、青年人口の減少に直面して教授団のイニシアチブが衰退するという潮目の変化を「学生消費者主義」(Student Consumerism)という言葉で説明してみせた。
本書はこの議論を引き継ぎつつ、中世ヨーロッパを引き合いに出すことで、壮大な歴史の中に1980年代のアメリカ、そして1990年代以降の日本の状況を位置付けるという最高難度の大技を決めている。大局観を養うにはもってこいの一冊。オススメ。
オススメ度:★★★★★

大学淘汰の時代―消費社会の高等教育 (中公新書)

大学淘汰の時代―消費社会の高等教育 (中公新書)

喜多村和之『学生消費者の時代』(玉川大学出版部)

私が敬愛する喜多村和之さんの本から始めてみたい。

今日アメリカの大学の収入源のなかで、政府の援助や公費ではなく、私的財源に基づく寄付金の占める比率は四・八%(一九八〇−八一年度)と、金額的には大きいものではない。

隔世の念を禁じえなかった。

『学生消費者の時代』の初版が出版されて三十数年。たかだか三十数年の間にアメリカの大学はかくも劇的な変貌を遂げていたのか、と。その意味でこれは古い本である。

バークレイでは、ウィークデイは毎日午後一時からキャンパス・ツアーがある。大学の正門にあたるセイザーゲートの手前のスチューデント・ユニオンの建物前から出発して、約一時間半あまりキャンパスの要所要所を見学する。もちろん無料で、観光客や外国人学者や留学生のなかにまじって、バークレイ志望者らしい高校生たちが(中略)ぞろぞろとついてゆく。

変わるものもあれば、変わらないものもある。

カリフォルニア大学バークレイ校、通称「UCバークレイ」のウェブサイトを覗いてみるといまもこのツアーがあることを知ることができる。

https://visit.berkeley.edu/campus-tours/guided-walking-tours-2/

世界の裏側でこの小さなキャンパス・ツアーがほとんど毎日、営々と続けられてきたことを思うと小さな感動がある。

英語が不得手でも、これなら参加して見聞を広めることができそうだ。私は大いに旅情をかきたてられた。

オススメ度:★★★☆☆

新版 学生消費者の時代―バークレイの丘から

新版 学生消費者の時代―バークレイの丘から